<妊娠>学業継続を 高校自主退学で生活困難、貧困の連鎖に
日本では、妊娠した高校生の大半が中退する。だが、退学しなければならない国や自治体の規則はない。学校を続けられるかどうかは、周囲の教員の理解と協力にかかっている。妊娠相談を受ける民間団体のほか、一部の教員からも「若年妊娠を問題行動と切り捨てるのではなく、貧困の連鎖に陥らせないため支援する対象と認識すべきだ」との声が上がる。【黒田阿紗子】
◇「助言欲しかった」
首都圏に住む女性(31)は16年前、進学校で知られる私立高に入学した直後、交際する同級生との間で妊娠していたことが分かった。既に6カ月で、中絶はしたくなかった。「1年休学した後、復学したい」。校長と担任教諭に何度も頭を下げたが「悪い前例になってしまうので自主退学して」の一点張り。最後は、妊娠には触れずに「退学したい」と直筆で書かされた。
小学6年の時に両親が離婚。生活保護を受けながら一緒に暮らす母親は精神的に不安定で食事も作ってくれず、後に精神疾患と診断された。「今思うと甘いけれど、早く家を出たくて、妊娠してもいいと考えていた」という。
だが母親は、同級生との結婚を許さなかった。実家で子育てをしたが、母親の暴言と不安定になった妹の暴力に苦しめられた。
自力で定時制に再入学し、21歳で卒業。2年前に長男を連れ実家を出て、派遣社員として働きながら正社員を目指している。「高卒でなければ求人もない。せめて退学の時、通信制や定時制への転学など、学び続けるための選択肢について助言が欲しかった」と振り返る。
助産師らが妊娠相談に応じる一般社団法人「にんしんSOS東京」の中島かおり代表理事によると、若年妊娠する子は、虐待など家庭内の問題を抱えていることが少なくないという。「妊娠は学校側がその問題に気付き、必要な支援につなぐきっかけになり得る」と指摘する。
人生を大きく左右する妊娠は、簡単に考えていい問題ではない。三重県の県立高校の女性養護教諭は、性教育に力を入れる。「今の保健教科では時間数も中身も足りない。避妊の仕方のほか、命や人権の大切さを学ぶことは、ライフプランを考えることにもつながる」。それが広まれば「『妊娠したら学校にいられない』という社会の雰囲気も変わるはず」と感じている。
◇体育実技免除、気遣う担任 学校が配慮「まだ少数派」
文部科学省は、高校生の妊娠について「学業継続の意思がある場合は教育上必要な配慮を行う」との立場だ。校長の判断で体育の実技をリポート提出に替えたり、出席日数の不足を補習でカバーしたりできる。子育ての協力者がいなければ保育所利用も可能だ。
実際、学校のサポートで卒業できた元生徒もいる。神奈川県内の女性(20)は、県立高3年の秋に、9歳年上の交際相手の子どもを妊娠した。養護教諭を通じて担任に伝えてもらうと、体育の実技は免除された。担任は「学校では妊娠を知らない他の生徒がぶつかってきたりして危ないこともある。大丈夫か?」と気遣ってくれ、「退学」の話は一言もなかったという。
結婚して卒業後に出産したが、夫に毎日暴力を振るわれて離婚。実家で生活保護を受ける母親と一緒に暮らす中、今も頼りにしているのが母校だ。2〜3カ月に1回は顔を出し「先生に相談して、子どものために仕事をしなければと思うようになった。中卒の求人は全然ないので、高校を卒業しておいてよかった」と話す。
在学中から女性を支えてきた男性教諭は「校長や同僚も卒業に向け支援することで一致し、いつでも相談してもらえる関係を大切にしてきた。だが、こういった対応を取る高校はまだ少数派で、特に全日制では理解が乏しい」と指摘する。
退学を強要はしないが「おなかが大きくなると体育も難しいね」「親とよく話し合って」などと言われ、居づらさを感じて自主退学する−−。妊娠相談を受ける三重県のNPO法人「MCサポートセンターみっくみえ」の松岡典子理事長によると、最近そうしたケースが目立つという。
本来は、学校側が通学継続にどんな配慮ができるかを生徒に伝えるべきだが、国や教育委員会は具体的な配慮の例を示そうとしない。松岡さんは「情報提供を受けていない生徒は、きちんとした選択さえできない」と対応改善を訴える。
◇韓国では国ぐるみサポート フリースクールで卒業証明
子どもの「学習権」を保障する観点から、妊娠した生徒が学校をやめないよう国ぐるみで取り組んでいるのが韓国だ。自主退学に追い込まれた元女子高校生の陳情をきっかけに、国家人権委員会が2010年に自治体の教育当局などに勧告し、環境整備が進んだ。
韓国の事情に詳しい姜恩和(カンウナ)・埼玉県立大講師(児童福祉学)によると、勧告後、出産を望む女子中高生が妊娠中や出産後も通うことができるフリースクールが全国約10カ所に設置された。教育課程を修了すれば、もともと在籍していた高校の卒業証明書がもらえる。
運営するのは、結婚していない母親と子が入所する「未婚母子施設」。国の補助金によって民間が運営し、最長1年半入所しながら通学や職業訓練ができるという。
姜講師は「若年妊娠をした女性が自立への道筋を描けるようになった。韓国は学歴社会という事情もあるが、日本でも学業の中断が若者に与えるダメージの大きさを認識し、継続できる支援を進めるべきだ」と指摘する。
(出典 news.nicovideo.jp)
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